イモと過ごした夏

あたしは、
手足の数が多過ぎるものと少な過ぎるものが苦手だ。

想像しただけでも、全身が『ぞわぞわ』してしまう。

特に、虫は。。。どうしてもダメだった。


しかし、

そんなあたしの概念を叩き壊すような体験をした。


そろそろ蒸し暑さがピークに達し始めた、今年の夏。

ぱぱがお仕事で、蝶を卵から育てる作業をしていた。

会社で始めた虫たちのお世話も連休を挟むため、
やむなく自宅に持ち帰り、その飼育を続けることにしたらしい。


ぱぱが会社から虫カゴを持ち帰ったその日は雨が降っていた。


自宅に到着してすぐに確認したら、
一匹は水に溺れて『お亡くなり』になっていた。

あたしはどうしても抵抗感を拭うことができず、
最初は見ないようにしていた。


でも、

「会社でも『気持ち悪い』とか
　『そばに置かないで』とか言われてたよ」

という、ぱぱのコトバに、あたしの胸の中の、何かが動かされ。。。
勇気を出して、虫カゴを覗いてみた。

懐かしい虫カゴの中には、既に卵から孵化して、脱皮を繰り返し、
次にはサナギになるために、
今では食べ盛りの『イモムシ』たちがたくさんいた。

「よく見るとかわいい顔をしてるんだよ
　目に見えるところは、実は目じゃないんだけどね」

もしょもしょ動く姿に、やっぱり、ちょっぴり『サブイボ』が。。。

「こいつらは食ってるだけで、何にも悪さはしないんだ」

たくさんのことを、ぱぱは教えてくれた。


ひたすらに木の葉を食べ続け、
あっと言う間になくなる葉を公園まで採りに行くぱぱ

そんな姿を見ていたら。。。
気持ちが傾いてきて、あたしもお手伝いをするようになった


食べ物がなくなったら補給する。

夜が明けたら、
木の葉の水を替え、
トイレのゴミを片付け、
虫カゴを洗う。

そんなことを繰り返していたら、
最初は馴染めなかったあたしも、彼らに愛着を感じ始めた。


どんどん大きくなっていくイモムシたち。。。やがて
そのうちの一匹がサナギになったと連絡があった。

実際に、幼虫からサナギになるときを見ることもできた
。。。ある意味それは『ショッキング』な体験になった

自然界の不思議に触れた気がした。


数匹のイモムシたちの中で無事にサナギになれず、
その短い生命を落としていくものもいた。


サナギから蝶になるとき、
あたしは何を目撃して、何を感じるんだろう。。。


どんどんとイモムシからサナギになっていく中で、
最後に一番小さいイモムシが一匹だけ残った。

あたしはそのイモムシを、
いつからか『イモちゃん』と呼ぶようになった。





サナギになった他のイモムシたちに比べて、
まだまだ小さかった『イモ』

あたしは一生懸命お世話をした。


話しかけたり、
ちょっとだけ『なでなで』させてもらったり、
息を吹き掛けたり（←これはイジメ？）

眠るときは枕元に虫カゴを置いて寝た。

ぱぱに「まま、過保護(笑)」と言われるほど。。。


だって、放っておけなかったんだもん。

何だか、他人とは思えなかったから。。。虫だけど


数日後、

「イモは無事サナギになりました」

と、ぱぱから連絡が来た。

現場には立ち合えなかったけど、
すごくすごく嬉しかった。。。自分のことのように


しかし数時間後、再びぱぱから悲しい連絡が。。。

「残念だけど、イモは寄生蜂にやられていたみたい」

・・・寄生蜂。

幼虫に卵を生み付け、その身体を餌に孵化する蜂。

つまり、それは、
サナギになったイモの『死』を意味していた。


この世に生を受け、生まれた小さな生命は、
蝶になって空に羽ばたくことなく、再び闇の世界に帰る。。。


哀しかった。

とても、とても、哀しかった。


流れだした涙は止まらなくて、

しばらく。。。泣いた


わかってる

この涙はあたしの『エゴ』だって。。。だけど、だけど


あたしはイモに
自分自身の姿を重ねていたのかも知れない。。。



その後、

イモムシからサナギになった姿のまま、
イモはしばらく生きていた。

お腹に、ぽつん。。。と、黒いもの

だけど、もう、どうすることもできなかった。


やがて、そのまま、イモは動かなくなった。

永遠に、サナギの姿のままで。


これが、自然というもの。

自然界の揺るぎないルール。。。



ほんの少しだったけど、
イモちゃんと過ごした時間は楽しかった。

小さな生命と出逢えて、あたしはしあわせだった。


ひと夏の、暖かい想い出をありがとう。

優しい記憶を、ありがとう。。。ありがとう


厳しい自然だけど、
その空は広くて、すべてのものを受け入れてくれるほど、
果てしなく大きいものだから。。。

この空を思いっきり飛んでね、イモちゃん


あなたの、その、見えない翼で。。。

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